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疾患別呼吸器医学生初期研修医専攻医

喘息

#疾患別

この記事で学ぶこと

  • 喘息を「変動する呼吸器症状」と「変動する呼気気流制限」の2本柱で説明できる。
  • 治療開始前に、スパイロメトリーやPEFで客観的に診断を確認する重要性を理解できる。
  • 症状コントロールと将来リスクを分けて評価できる。
  • GINA 2026の成人・青年治療で、Track 1、AIR、MART、Track 2の違いを説明できる。
  • 急性増悪時の初期対応、OCS、酸素投与、専門医紹介の目安を整理できる。

まず押さえるポイント

  • 喘息は、喘鳴、息切れ、胸部圧迫感、咳嗽などの症状が時間・強さともに変動し、変動する呼気気流制限を伴う疾患である(GINA 2026)。
  • 可能な限り、吸入ステロイドを含む治療を始める前に診断根拠を記録する。治療開始後は症状と肺機能の変動が小さくなり、診断確認が難しくなる(GINA 2026)。
  • 成人・青年では、SABA単独治療は推奨されない。すべての患者でICSを含む治療を考える(GINA 2026)。
  • GINA 2026では、成人・青年の基本方針として、低用量ICS-ホルモテロールをリリーバーにするTrack 1が推奨される(GINA 2026)。
  • 「症状が少ない」ことと「重症増悪リスクが低い」ことは同じではない。症状コントロールと将来リスクを別々に評価する(GINA 2026)。
  • 日本では、20-44歳の成人喘息有病率は5.4%、最近12か月の喘鳴の期間有症率は9.4%と報告されている(厚生労働省資料)。また、2024年の人口動態統計では喘息による死亡数は1,088人である(厚生労働省人口動態統計)。

1. 疾患の全体像

喘息は、慢性気道炎症を背景に、症状と気流制限が変動する疾患である。症状は自然に軽快することも、治療で改善することもある。一方で、症状がない時期にも気道過敏性や炎症が残ることがあり、ウイルス感染、アレルゲン、運動、冷気、大気汚染などをきっかけに増悪する。

教育上のポイントは、喘息を「ゼーゼーする病気」とだけ覚えないことである。咳だけ、胸部圧迫感だけ、運動時の息切れだけで始まることがある。逆に、喘鳴があっても心不全、COPD、上気道狭窄、誘発性喉頭閉塞、肺塞栓などの別疾患を考える必要がある。

喘息の診療では、次の3つを同時に扱う。

  1. 診断を客観的に確認する。
  2. 現在の症状コントロールを評価する。
  3. 将来の増悪、肺機能低下、薬剤副作用のリスクを下げる。

2. 疫学・インパクト

GINA 2026では、喘息は国によって人口の1-29%に影響する一般的な慢性呼吸器疾患とされる。症状が軽そうに見える患者でも、重症または致死的な増悪を起こしうる点が重要である。

日本のデータでは、成人20-44歳での喘息有病率は5.4%、最近12か月の喘鳴の期間有症率は9.4%と報告されている(厚生労働省資料)。成人発症喘息は成人喘息全体の70-80%を占め、そのうち40-60歳代の発症が60%以上とされる。

喘息死は減少しているが、ゼロではない。2024年の人口動態統計では、喘息による死亡数は1,088人である。教育上は「吸入薬でコントロールできる疾患」と「増悪で死亡しうる疾患」の両面を押さえる。

3. 診断の考え方

喘息の初回診断は、次の2つを満たすことで考える。

  1. 特徴的で変動する呼吸器症状がある。
  2. 変動する呼気気流制限を客観的に示す。

症状

喘息を疑う症状は、喘鳴、息切れ、胸部圧迫感、咳嗽である。次の特徴があるほど喘息らしくなる。

特徴意味
症状が時間とともに変動する日によって、または時間帯によって強さが変わる
夜間・早朝に悪化する喘息に典型的な時間帯
運動、笑い、アレルゲン、冷気で誘発される誘因を確認する
運動を止めた後に悪化するGINAでは特徴的所見として扱われる
ウイルス感染で出現・悪化する増悪の典型的な契機

咳だけが主症状の場合は咳喘息を考えるが、後鼻漏、GERD、ACE阻害薬、好酸球性気管支炎、結核、肺癌なども鑑別する。

身体所見

身体所見は診断を補助するが、正常でも喘息は否定できない。喘鳴は気流制限の手がかりになる一方、重症増悪では気流が極端に低下して「silent chest」になることがある。

所見解釈
呼気性喘鳴気流制限を示唆するが、喘息に特異的ではない
呼気延長下気道閉塞を示唆する
陥没呼吸、会話困難、意識障害重症増悪・呼吸不全を疑う
発熱、局所性ラ音、片側呼吸音低下肺炎、気胸など別疾患を考える
鼻炎、湿疹、アトピー歴アレルギー性喘息を支持するが、必須ではない

検査

喘息診断で中心になるのは、変動する呼気気流制限の確認である。スパイロメトリーが望ましいが、使えない場合はPEFを用いる。症状だけで診断を確定しない。

検査・基準成人の陽性基準注意点
気管支拡張薬反応性SABA吸入10-15分後にFEV1またはFVCが12%以上かつ200 mL以上増加。PEFなら20%以上増加可能なら症状がある時、または朝に測る
PEF日内変動1日2回、2週間測定し、平均日内変動が10%超スパイロメトリーより信頼性は落ちるが、症状のみよりよい
ICS含有治療4週間後の改善FEV1が12%以上かつ200 mL以上増加、またはPEFが20%以上増加治療後の診断確認に使う
気道過敏性試験メタコリンでFEV1が20%以上低下など専門施設で検討
受診間変動別日でFEV1が12%以上かつ200 mL以上変動、またはPEFが20%以上変動特異度は比較的よいが感度は高くない
FeNO成人・青年で50 ppb超、小児で35 ppb超ならType 2喘息を支持低値でも喘息は否定できない。鼻炎などでも上昇する
血中好酸球地域・施設基準以上ならType 2炎症を支持ステロイド、時間帯、寄生虫感染などの影響を受ける

検査の感度・特異度について、GINAは単一検査で喘息を完全に確定・除外する立場ではない。気管支拡張薬反応性、PEF変動、気道過敏性試験などは、測定条件、発症時期、治療前後、感染・増悪の有無で結果が変わる。気管支拡張薬反応性が初回陰性でも、喘息を否定せず、症状時の再検、PEFモニタリング、気道過敏性試験、治療後の肺機能改善を組み合わせる。

4. 初期評価

初診時には、診断と同時に重症度ではなく「いま危ないか」「将来危ないか」を確認する。

すぐに評価する項目

  • バイタル、SpO2、会話可能か、意識状態。
  • 呼吸数、補助呼吸筋使用、陥没呼吸。
  • PEFまたはFEV1が測れるか。
  • 過去の挿管、ICU入室、救急受診、OCS使用。
  • SABA使用量、吸入手技、アドヒアランス。
  • 喫煙、電子タバコ、職業曝露、アレルゲン、NSAIDs、β遮断薬。
  • 鼻炎、副鼻腔炎、GERD、肥満、食物アレルギー、妊娠、心理社会的問題。

症状コントロールの4項目

過去4週間について、以下を確認する。

質問意味
日中症状が週2回を超えるか症状頻度
夜間覚醒があるかコントロール不良の手がかり
SABAリリーバーを週2回を超えて使うかSABA使用者で評価する
喘息で活動制限があるか生活への影響

注意点として、ICS-ホルモテロールなど抗炎症リリーバーを使う患者では、SABAの「週2回超」と同じ意味で単純に評価しない。抗炎症リリーバーの使用頻度は、維持治療が必要かどうかを考える材料として別に評価する。

5. 重症度・リスク層別化

喘息の重症度は、初診時の症状の強さだけで決めない。GINAでは、喘息重症度は後ろ向きに「症状と増悪をコントロールするために必要だった治療強度」で評価する考え方が中心である。

将来の増悪リスク

症状が少なくても、次の要素があると将来の増悪リスクは上がる。

リスク因子具体例
SABA過用年3本以上で増悪リスク上昇、月1本以上で死亡リスク上昇が問題になる
ICS不足未処方、アドヒアランス不良、吸入手技不良
過去の増悪過去1年の重症増悪、過去の挿管・ICU入室
低肺機能FEV1 60%未満など
Type 2炎症血中好酸球高値、FeNO高値
併存症肥満、慢性副鼻腔炎、GERD、食物アレルギー、妊娠
曝露喫煙、電子タバコ、アレルゲン、大気汚染、職業曝露
心理社会的要因経済的問題、精神心理的問題

合併症・鑑別

領域確認すること
上気道アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、鼻茸
下気道COPD、気管支拡張症、好酸球性気管支炎、ABPA
心血管心不全、虚血性心疾患、肺塞栓
消化器GERD
薬剤NSAIDs、β遮断薬、ACE阻害薬
職業職場で悪化し休日に改善するか

成人発症喘息では、職業性喘息を必ず考える。原因物質の同定や就労への影響が大きいため、疑う場合は専門的評価につなぐ。

6. 治療と予防

全体像

喘息治療のゴールは、症状を抑えることだけではない。重症増悪、喘息関連死、肺機能低下、薬剤副作用を減らすことが同じくらい重要である。

治療開始前には、可能な限り診断根拠、症状コントロール、リスク因子、肺機能を記録する。吸入器を選ぶ時は、患者が実際に使えるデバイスかを確認し、吸入手技をその場で見て修正する。

Track 1とTrack 2

GINA 2026の成人・青年治療は、リリーバーの違いでTrack 1とTrack 2に分ける。

方針リリーバー位置づけ
Track 1低用量ICS-ホルモテロール推奨。症状時に使うたび抗炎症治療も入る
Track 2ICS-SABA、またはSABA代替。Track 1が使えない、または安定しアドヒアランスが良い場合

AIRはanti-inflammatory relieverの略で、抗炎症リリーバーを意味する。症状を楽にするだけでなく、ICSを同時に届ける考え方である。MARTはmaintenance-and-reliever therapyの略で、維持療法と発作時治療に同じICS-ホルモテロール吸入器を使う治療である。MARTに使えるICS-LABAはICS-ホルモテロールであり、他のICS-LABAをリリーバーとして使わない。

成人・青年の初期治療

初診時の状態Track 1の初期治療Track 2の代替
症状がまれ。週2日以下必要時のみ低用量ICS-ホルモテロール必要時に低用量ICS-SABA、またはSABA使用時にICS
症状が週3-5日未満、肺機能正常から軽度低下必要時のみ低用量ICS-ホルモテロール毎日の低用量ICS + 必要時ICS-SABAまたはSABA
ほぼ毎日症状、週1回以上の夜間覚醒、または低肺機能低用量ICS-ホルモテロールMART低用量ICS-LABA + 必要時ICS-SABA、または中用量ICS + SABA
毎日症状、週1回以上の夜間覚醒、かつ低肺機能または最近の増悪中用量ICS-ホルモテロールMART中用量ICS-LABA + 必要時ICS-SABAまたはSABA
急性増悪で受診増悪として治療し、通常は中用量MARTを開始増悪として治療し、中用量ICS-LABA + SABAを開始

Track 1のStep 1-2では、必要時のみ低用量ICS-ホルモテロールを使う。Step 3-5では、維持療法としてICS-ホルモテロールを定期吸入し、症状時にも同じ吸入器を使う。

SABA単独を避ける理由

SABAは症状を速く改善するが、気道炎症を治療しない。SABAだけに頼ると、患者はSABAを「主治療」と認識しやすく、ICS不足、受診遅れ、増悪リスク上昇につながる。GINA 2026では、成人・青年、小児6-11歳でもSABA単独治療は推奨されない。

経口ステロイドの位置づけ

OCSは中等症から重症の急性増悪では救命的である。一方で、短期コースを繰り返すだけでも感染、血栓、骨粗鬆症、糖尿病、心不全、白内障などの累積リスクが問題になる。維持OCSは最終手段であり、吸入治療の最適化、MART、生物学的製剤、専門医評価でOCS曝露を減らす。

7. 急性増悪対応

急性増悪では、診断名よりも重症度評価と初期治療を優先する。

初期評価

  • 会話可能か、意識障害がないか。
  • SpO2、呼吸数、脈拍、血圧。
  • 補助呼吸筋使用、陥没呼吸、silent chest。
  • PEFまたはFEV1が測れるか。
  • アナフィラキシー、気胸、肺炎、心不全、肺塞栓などの別疾患がないか。

SpO2が90%未満なら積極的治療が必要である。酸素投与は、可能ならパルスオキシメータで調整し、92-95%を目標にする。成人では酸素投与中のSpO2を96%超にしないよう注意する。

初期治療

治療内容
SABA反復吸入pMDI + スペーサーが使えるならネブライザーより推奨される。軽症から中等症では迅速な気流制限改善を狙う
イプラトロピウム中等症から重症では、最初の1-2時間にSABAへ追加すると入院リスクを減らす
OCS中等症から重症、悪化傾向、初期治療反応不十分なら早期に開始
酸素必要時に投与し、SpO2 92-95%を目標に調整
抗菌薬肺炎を示す強い根拠がなければルーチンでは使わない

成人のOCSは、プレドニゾロン換算40-50 mg/日を5-7日間が実用的な目安である。GINA本文では成人はプレドニゾン/プレドニゾロン1 mg/kg/日、最大50 mg/日を通常5-7日間、小児6-11歳は1-2 mg/kg/日、最大40 mg/日を3-5日間としている。2週間未満の短期投与では通常テーパリングは不要である。

退院・帰宅時

増悪で受診した患者は将来の増悪リスクが高い。帰宅時には、SABAだけで帰さない。

  • ICSを含む維持治療を開始・強化する。成人・青年では可能ならMARTを考える。
  • 吸入手技とアドヒアランスを確認する。
  • 書面のアクションプランを渡す。
  • 増悪の原因を振り返る。
  • 数日以内にフォローし、さらに2-3か月以内に再評価する。

8. フォローアップ

フォローでは、症状だけでなく、リスクと治療実行性を見る。

確認項目具体例
症状コントロール日中症状、夜間覚醒、活動制限、リリーバー使用
将来リスク増悪歴、SABA過用、低FEV1、FeNO/好酸球、喫煙、併存症
吸入手技実際に吸ってもらい、デバイス操作を確認
アドヒアランス使い忘れ、費用、理解不足、副作用不安
副作用口腔カンジダ、嗄声、OCS累積曝露
環境・職業職場、家庭、アレルゲン、喫煙、大気汚染

治療開始後は、2-3か月後、または臨床的に必要なら早めに反応を確認する。良好なコントロールが3か月程度維持されれば、最小有効治療を探すためにステップダウンを考える。ただし、増悪リスクが高い患者や重症喘息で生物学的製剤が効いている患者では慎重に行う。

9. コンサルト・紹介

以下では、呼吸器内科、アレルギー専門医、重症喘息クリニックなどへの紹介を考える。

  • 生命に関わる増悪、過去の挿管・ICU入室。
  • 診断が不明確、または喘息以外の疾患が疑われる。
  • 職業性喘息が疑われる。
  • 正しい吸入手技・良好なアドヒアランスでも中用量ICS-LABAまたはStep 4相当でコントロール不良。
  • 低肺機能、頻回増悪、OCSを年2回以上必要とする。
  • 維持OCSを検討せざるを得ない。
  • 食物アレルギー、アナフィラキシー、AERD、ABPA、EGPAなどが疑われる。
  • 生物学的製剤の適応評価が必要。

参考文献