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脂質異常症
#疾患別
疫学
- アテローム性動脈硬化性心疾患(ASCVD)は世界的な主要死因である。米国の成人の4人に1人は、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)の高値を有している。
- LDL-Cの蓄積はASCVDの直接的な原因であり、若年期からの累積曝露が将来のASCVDリスクを大きく高める。
- 心血管リスクを高めるリポ蛋白(a)(Lp(a))の上昇(>50 mg/dL)は、人口の20%以上に見られる。
- HIV感染者は一般人口と比較してASCVDのリスクが2倍高い。
- 75歳以上でもLDLを38.7mg/dl下がるごとに心血管イベントが26%低下する。( PMID: 33186535)
診断・評価
- 高LDLと高TGは分けて考える。高LDLへのアプローチ後も高TGが残存している場合にのみ高TGへの追加管理を検討する。
- 採血では、基本的には空腹時にT-Chol、HDL, TGの3項目を測定し、Friedewald式(LDL-C = TC - HDL-C - TG/5)でLDLを計算する。空腹時採血できない場合やTG≧400の場合はLDL直接測定する。(**T-**Chol, HDL, LDL, TGのうち3項目までしか保険で測定できないので注意)
- 心血管リスクを評価する: 日本では、久山町スコアを用いる。(計算アプリあり)米国では、新たにPREVENT-ASCVD方程式が導入された**。これにより10年リスクを低(<3%)、境界域(3~<5%)、中(5~<10%)、高(10%以上)に分類する。**欧州では「SCORE2」および「SCORE2-OP」を使用し、非HDL-Cを用いた評価を行う。
- リスクエンハンサー(修飾因子): 治療方針に迷う場合、家族歴、CKD、肥満、炎症性疾患(リウマチなど)、妊娠合併症(早発閉経や妊娠高血圧腎症)などの修飾因子を考慮しリスクを再評価する。
- Lp(a)測定: ESCでは、生涯に少なくとも1回測定することが推奨。AHAでは未推奨で、家族歴を有する人にのみエビデンスがありとのみ記載されている。
- 非造影の冠動脈石灰化(CAC)スコア: 40歳以上で境界域〜中リスク(7.5−20%)の患者においてスタチン導入に迷う場合に測定が推奨される。
- 小児のスクリーニング: 9〜11歳のすべての小児に対し、コレステロールスクリーニングを実施することが推奨される。(一部地域では小児のメタボ健診を実施している)
治療
LDL-Cは、「より低く、より長く(lower for longer)」管理することが、将来の心血管イベントの強力な抑制につながる。
- LDL-Cの目標値: 米国ガイドラインでは目標値が再設定された。
- 境界域(3〜5%)または中等度(5〜<10%)で一次予防: 100 mg/dL未満
- 高リスク(一次予防): 70 mg/dL未満
- 超高リスク(ASCVD既往のある二次予防): 55 mg/dL未満
- TGの目標値:
- 空腹時(10時間以上の絶食):150 mg/dL未満
- 随時(食後など):175 mg/dL未満
非薬物治療
脂質を下げるというよりは、将来の心血管リスクの低減を目指したライフスタイル改善が推奨される。 適正体重の維持、定期的な運動、禁煙、健康的な睡眠習慣が治療の基盤となる。
- 食事: 和脂肪酸の制限や不飽和脂肪酸への置換は血清脂質を改善し、冠動脈疾患の予防につながる。コレステロール摂取の制限はLDL-Cを低下させる
- 運動: 週150分以上の中等度有酸素運動(または75分の高強度)に加えて、週2〜3回のレジスタンストレーニングを推奨。有酸素運動は、HDL上昇、LDL/TG低下効果あり。
- 嗜好品: 禁煙を強く推奨。アルコールは可能な限り控える(欧州基準では純アルコール100g/週未満、米国基準では男性2杯/日・女性1杯/日以下)。
- サプリメントの非推奨: オメガ3脂肪酸(EPA+DHAの混合サプリ)、紅麹(Red yeast rice)、植物ステロールなどの市販サプリメントは、心血管イベント減少の明確なエビデンスがないため、ASCVDリスク低減目的での使用は推奨されない。
薬物治療
薬物治療の適用
- 過去にASCVDの既往がある二次予防の対象者
- LDL>190mg/dl以上
- 40歳以上でDM、HIVを有する患者
- 10年リスクが境界域(3〜5%)または中等度(5〜<10%)で目標値(< 100 mg/dL)に達しない場合、あるいは高リスク(10%以上)で目標値(< 70 mg/dL)に達しない場合
- ASCVD高リスクかつLDL管理後もTG>150mg/dlの場合
薬剤選択
- スタチンが第一選択である。基本的には、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンの3種類のストロングスタチンから選ぶ。容量も保険適用内で高用量で用いる。LDLが30−50%低下することを目指す。
- スタチン処方時には、薬物相互作用と代謝経路(CYP)に注意。CYP3A4で代謝される脂溶性スタチン(アトルバスタチン、シンバスタチン)は、マクロライド系抗菌薬、アゾール系抗真菌薬、一部のカルシウム拮抗薬などと併用すると血中濃度が上昇し、横紋筋融解症などのリスクが高る。特にシンバスタチンは、イトラコナゾールやHIVプロテアーゼ阻害薬などとの併用が禁忌。一方でロスバスタチン、プラバスタチンは、水溶性で、CYP代謝を受けないので相互作用が少ない。ロスバスタチンやピタバスタチンは、OATP1B1などのトランスポーターを介するため、シクロスポリンとの併用が禁忌。アトルバスタチンはグレカプレビル・ピブレンタスビル(C型肝炎治療薬)との併用が禁忌。
- スタチン不耐または最大耐容量でも目標値に達しない場合、エゼチミブ(EWTOPIA 75 )やPCSK9阻害薬に加え、新しい経口薬であるベムペド酸(Bempedoic acid)の追加(OUTCOMES)が推奨される。
- 急性冠症候群(ACS): 「Strike early and strong」のアプローチが推奨される。ACS入院時から強力なスタチンとエゼチミブの併用療法を開始し、早期のLDL-C目標達成を目指す。
- 高トリグリセリド(TG)血症: スタチンを基本とするが、高リスクでTG上昇(135〜499 mg/dL)が残存する場合は、高用量イコサペント酸エチル(4/dayが推奨だが、日本では900mg1日3回まで)、またはオメガ3脂肪酸(EPA+DHA 4g/day)の併用を考慮する。(REDUCE-IT, STRENGTH) フィブラート系薬による心血管イベント抑制効果は確立されていない
- 特殊な集団:
- がん患者でアントラサイクリン系抗がん剤治療を受ける場合、心毒性予防目的でスタチン投与を考慮する。
- 妊婦・授乳婦については、原則として脂質低下薬を中止する。
コンサルトのタイミング
- ホモ接合体性家族性高コレステロール血症(HoFH)が疑われる場合: スタチンやPCSK9阻害薬では十分な効果が得られないことが多く、エビナクマブ(Evinacumab)などの特殊な治療薬が必要となるため。
- 小児・思春期の患者で著明な脂質異常を認める場合: 遺伝性疾患の疑いを含め、早期からの専門的介入が必要となるため。