高血圧
疫学
- 有病率: 日本における高血圧患者数は4300万人。うち3100万人が管理不良と言われ、未治療者も450万人と推計されている。
- 最大の修正可能リスク: 高血圧は、世界的に見ても全死因死亡および心血管疾患(CVD)の最も重要かつ修正可能なリスク因子です。血圧とCVDリスクには連続的で対数線形な関係があり、血圧が上昇するにつれて生涯にわたるCVDリスクは増加します。日本における高血圧に起因する脳心血管死亡数は年間17万人、脳心血管死亡数の約40%が高血圧に起因する。
- 加齢変化: 収縮期血圧(SBP)は生涯を通じて持続的に上昇しますが、拡張期血圧(DBP)は50代をピークにその後横ばい、または低下する傾向があります。
- 関連疾患: 脳卒中・冠動脈疾患の他に、慢性腎臓病(CKD)、心不全、心房細動、認知症のリスクとなることが知られている。
診断・評価
真の血圧値の把握、心血管リスクの層別化、および標的臓器障害が重要となる。
- USPSTFでは、18歳以上でスクリーニングが推奨されている。
- 血圧測定: 診察室血圧だけでなく、白衣高血圧や仮面高血圧を除外するため、家庭血圧(HBPM)や24時間自由行動下血圧測定(ABPM)といった診察室外血圧による確定診断が強く推奨されます。
- 血圧計は、上腕型が推奨。日本高血圧学会に市販の血圧計の精度評価の情報が掲載されている。
- ルーチン検査: 新規診断時には、血算、電解質(Na, K, Ca)、血清クレアチニン/eGFR、脂質プロファイル、空腹時血糖またはHbA1c、TSH、尿検査(糖尿病があれば尿中アルブミン/クレアチニン比)を評価します。
- 二次性高血圧の評価: 全例での評価は推奨されていないが、若年発症、電解質異常など他のClueがあれば追加検査を検討する。
- 心電図・臓器障害評価: 全例で12誘導心電図を実施し、左室肥大や心房細動の有無を確認します。
- リスク層別化ツールの活用: 治療介入閾値を決定するため、米国では「PREVENT」(10年CVDイベントリスク)、欧州では「SCORE2 / SCORE2-OP」を用いて患者の絶対リスクを評価します。
血圧測定の方法・条件の推奨
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 測定環境 | 1)静かな適温の室内 |
| 2)原則として背もたれつきの椅子に脚を組まず座る | |
| 3)測定前の安静および測定中は会話を交えない | |
| 4)測定前の喫煙,飲酒,カフェイン摂取は避ける | |
| 5)カフ位置を心臓の高さに維持できる環境 | |
| 測定機会 | 1)必須の機会と条件 |
| a)朝:起床後1時間以内,排尿後,朝の服薬前,朝食前,座位1~2分安静後 | |
| b)晩:就床前,座位1~2分安静後 | |
| 2)追加の機会 | |
| a)指示により,夕食前,服薬前,入浴前,飲酒前,夜間睡眠前など | |
| b)その他,自覚症状のある時,休日昼間など適宜 | |
| 測定回数 | 原則2回測定し,平均値を採用する。 |
血圧値の分類
| 分類 | 診察室血圧 収縮期 (mmHg) | 診察室血圧 拡張期 (mmHg) | 家庭血圧 収縮期 (mmHg) | 家庭血圧 拡張期 (mmHg) | | ------------ | ------------------------- | ------------------------- | ------------------------ | ----------------------- | | 正常血圧 | <120 | かつ <80 | <115 | かつ <75 | | 正常高値血圧 | 120~129 | かつ <80 | 115~124 | かつ <75 | | 高値血圧 | 130~139 | かつ/または 80~89 | 125~134 | かつ/または 75~84 | | Ⅰ度高血圧 | 140~159 | かつ/または 90~99 | 135~144 | かつ/または 85~89 | | Ⅱ度高血圧 | 160~179 | かつ/または 100~109 | 145~159 | かつ/または 90~99 | | Ⅲ度高血圧 | ≧180 | かつ/または ≧110 | ≧160 | かつ/または ≧100 | | (孤立性) 収縮期高血圧 | ≧140 | かつ <90 | ≧135 | かつ <85 |
治療
現在の世界的コンセンサスは**「リスクに基づく早期介入」と「忍容性がある限り厳格な降圧」**です。
- 治療開始の閾値:
- SBP ≥ 140 または DBP ≥ 90 mmHg: すべての患者に対して、生活習慣改善と直ちの薬物治療を開始します。
- SBP 130〜139 または DBP 80〜89 mmHg: 臨床的CVD、糖尿病、CKDを合併している場合、あるいは10年CVDリスクが高い場合(AHAではPREVENT ≥ 7.5%、ESCではSCORE2 ≥ 10%など)は、薬物治療の適応。低リスク患者ではまず3〜6ヶ月の生活習慣改善を試みる。
- 降圧目標:
- 日本(JSH) は、診察室血圧 <130/80 mmHg(家庭血圧<125/75mmHg) を基本とし、米国(AHA)では忍容性があれば <120 mmHg を推奨しています。
- 欧州(ESC)は、忍容性がある場合 120〜129 / 70〜79 mmHg を目標範囲として推奨・
※85歳以上の超高齢者や重度のフレイル、症候性の起立性低血圧がある患者では、目標を緩和する(例:<140 mmHg)。
非薬物治療
すべての血圧カテゴリーにおいて、基盤となる予防・治療戦略です。
- 食事: DASH食や地中海食など、野菜や果物が多く、飽和脂肪酸が少ない食事パターン。
- 減塩とカリウム摂取: ナトリウム摂取を1日あたり 2g(食塩相当量 5g)以下に制限します。CKDやカリウム保持性薬剤の使用がなければ、食事や**カリウム強化代替塩(やさしお®など)**からカリウム摂取を増やします。
- 運動: 週150分以上の中等度有酸素運動(または75分の高強度)に加えて、週2〜3回のレジスタンストレーニングを推奨します。
- 体重管理: 目標BMI 20〜25、腹囲の減少(男性<94cm、女性<80cm)を目指します。
- 嗜好品: 禁煙を強く推奨。アルコールは可能な限り控える(欧州基準では純アルコール100g/週未満、米国基準では男性2杯/日・女性1杯/日以下)。
- スマホアプリ: HERB-DH1試験により高血圧治療補助アプリの短期の降圧効果が実証され保険適用となった。長期効果のエビデンスは不十分。
薬物治療
- 第一選択薬: ①サイアザイド系利尿薬、②長時間作用型ジヒドロピリジン系CCB、③ACE阻害薬/ARB の3クラス。β遮断薬は、心不全や虚血性心疾患、心拍数コントロールなどの「強力な適応」がない限り第一選択にはならない。
- 合剤の活用: アドヒアランスの向上と迅速な降圧のため、第2度高血圧(≥140/90)の患者や多くの高リスク患者では、**初回から異なるクラスの2剤併用(可能なら1錠にまとまった配合剤)**での治療開始が推奨されます。
- 禁忌と注意点:
- ACE阻害薬とARBの併用は、腎障害や高カリウム血症のリスクを増すため禁忌
- サイアザイドは、高尿酸血症、高TGを起こすので処方の連鎖に注意
- 妊娠中または妊娠を希望する女性には、ACE阻害薬、ARB、直接的レニン阻害薬、MRAは胎児毒性のため禁忌
コンサルトのタイミング
- 高血圧緊急症(Hypertensive Emergency):
- 血圧 >180/120 mmHg であり、かつ急性標的臓器障害(急性心不全、大動脈解離、急性脳卒中、子癇など)の所見がある場合。ICU管理下での持続静注薬による速やかな対応が必要なため、直ちに救急/専門科へコンサルト
- 二次性高血圧が疑われる場合(Red Flags):
- 若年発症(40歳未満、特に30歳未満)
- 低カリウム血症を伴う、または副腎偶発腫瘍がある(原発性アルドステロン症を疑い内分泌科等へ)
- 重度の閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)を伴う
- 発作性の高血圧、動悸、頭痛、発汗(褐色細胞腫を疑う)
- 抵抗性高血圧(Resistant Hypertension):
- 利尿薬を含む適切な3剤を最大耐容量使用しても血圧がコントロールできない場合。服薬不良などを除外した上で、MRA(スピロノラクトン等)の追加を検討するが、二次性高血圧の評価も含めて専門医への紹介を検討。
- 薬物治療に抵抗性/不耐容の患者では、専門施設での「経カテーテル的腎デナベーション(RDN)」の適応評価を依頼。
- 妊娠中の重症高血圧:
- 妊婦で SBP ≥ 160 または DBP ≥ 110 mmHg が確認された場合は緊急事態であり、入院と産婦人科・専門医へのコンサルトが必要