MASLD
疫学
MASLD(metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease)は、肝脂肪化に少なくとも1つの心血管代謝リスク因子を伴う疾患概念である。従来のNAFLD/NASHの枠組みで蓄積されたエビデンスは、多くの臨床場面でMASLD/MASHにも引き継いで考えられる。
MASLDは世界で最も頻度の高い慢性肝疾患とされる。TargherらのNEJM reviewでは、成人の最大38%にみられるとされ、2型糖尿病患者ではMASLDの有病率が約65%、MASHが約32%と報告されている。疾患全体で肝硬変へ進む割合は少数でも、母集団が非常に大きいため、外来・健診・糖尿病診療での負担は大きい[1]。
日本については、2026年の日本のMASLD診療ガイドラインが、国内のsystematic review/meta-analysisに基づき、MASLD有病率を25.5%(95% CI 23.3-27.9)と記載している。同ガイドラインでは、1984-2005年の22.2%から2011-2016年の29.6%へ上昇傾向が示され、健診コホートでは男性37.4%、女性18.1%という性差も示されている[3]。日本の総合診療外来でも、MASLDは「まれな肝疾患」ではなく、生活習慣病診療の中で系統的に扱うべき疾患である。
MASLDの予後を決める中心は、肝脂肪の量ではなく線維化ステージである。F2以上のclinically significant fibrosis、特にF3-F4では、肝関連イベント、肝細胞癌、死亡リスクが上がる。NEJM reviewでは、MASLD全体の肝細胞癌発生率は約1.25/1000人年だが、MASLD関連肝硬変では約20/1000人年まで上がると整理されている[1]。
日本のMASLD診療ガイドラインでは、線維化進展率がF0→F1で6.5、F1→F2で6.9、F2→F3で5.8、F3→F4で4.5/100人年と記載されている。また、代償性肝硬変では非代償化イベントが年約8%とされ、平均的にはF0-1から非代償性肝硬変まで30-35年と推定される一方、個人差は大きい[3]。
国内の生検確認MASLDコホートでは、肝関連イベントがF0-1、F2、F3、F4でそれぞれ2.8、5.4、21.5、90.1/1000人年、肝細胞癌が1.7、4.5、14.2、16.9/1000人年と報告されている[3]。高齢、2型糖尿病、肝硬変家族歴などは不良転帰の予測因子として意識する。
診断・評価
いつ疑うか
MASLDを疑う入口は、腹部エコーやCTで脂肪肝を指摘されたとき、ALT、AST、γ-GTPなどの軽度上昇をきっかけに脂肪肝が疑われるとき、肥満・過体重、2型糖尿病または前糖尿病、脂質異常症、高血圧、CKD、心血管疾患、睡眠時無呼吸などがあるときである。
BMIが高くなくても、糖尿病、腹囲増加、脂質異常、高血圧などがあれば除外しない。既に血小板低下、脾腫、腹水、食道静脈瘤、肝硬変を疑う画像所見がある場合は、「脂肪が少ないから軽い」と考えない。burned-out MASLDでは脂肪が目立たなくても進行線維化があり得る。
初回外来で確認すること
問診では、飲酒量、飲酒パターン、過去の飲酒歴、体重変化、食事内容、清涼飲料・果糖飲料、運動量、座位時間を確認する。飲酒は、酒の種類、量、頻度から純アルコール量として見積もる。境界例ではMASLDと決め打ちせず、MetALDやアルコール関連肝疾患も並べて考える。2型糖尿病、前糖尿病、脂質異常症、高血圧、CKD、心血管疾患、睡眠時無呼吸、PCOSなどの代謝・心腎リスクも整理する。
薬剤性脂肪肝や肝障害を疑う薬剤、サプリメント、健康食品、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝疾患、鉄過剰、Wilson病などを疑う病歴・家族歴も確認する。
診察では、体重、BMI、可能なら腹囲、血圧を測定する。黄疸、腹水、浮腫、くも状血管腫、手掌紅斑、脾腫、筋肉量低下など、肝硬変を疑う所見を確認する。
今日依頼する検査は、AST、ALT、γ-GTP、ALP、ビリルビン、アルブミン、PT-INR、血小板数、HbA1cまたは空腹時血糖、脂質、腎機能、尿アルブミンまたは尿蛋白である。HBV、HCVなどは状況に応じて確認する。画像では脂肪肝の有無だけでなく、脾腫、腹水、肝硬変を疑う形態変化を確認する。
鑑別診断・除外すべき原因
MASLDは、肝脂肪化に加えて心血管代謝リスク因子を少なくとも1つ伴い、有意な飲酒や他の二次性原因だけでは説明しにくいときに考える。初期評価では、MASLD、MetALD、アルコール関連肝疾患、薬剤性、サプリメント・健康食品による肝障害、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝疾患、鉄過剰、その他の二次性脂肪肝を並べて考える。
「脂肪肝がある」だけでMASLDと決めず、飲酒と代謝リスクの両方を確認する。逆に、肝硬変まで進むと脂肪沈着が目立たなくなることがあり、代謝リスクがある患者で進行線維化を疑う場合はburned-out MASLDも考える。
FIB-4とVCTE
FIB-4は、MASLD外来で最初に使いやすい線維化リスク評価である。
FIB-4 = 年齢 × AST / (血小板数 × √ALT)
一般的な目安は、FIB-4 <1.3が進行線維化低リスク、1.3-2.67が中間リスク、>2.67が進行線維化高リスクである。65歳超では低リスクcutoffを2.0にする文脈があり、年齢で偽陽性が増える点に注意する[1,2]。
FIB-4は「肝硬変を診断する検査」ではなく、次にVCTE(vibration-controlled transient elastography、振動制御式トランジェントエラストグラフィ。FibroScanなどで肝硬度を非侵襲的に測る検査)や専門医評価へ進むべき患者を拾い上げる入口である。血小板低下、脾摘後、急性肝障害、糖尿病、診療環境の事前確率で解釈は変わる。
FIB-4が中間域または高値なら、地域で可能な範囲でVCTEやELFなどの二次評価につなげる。VCTEでは肝硬度 <8.0 kPaが進行線維化を否定する方向に働く一方、肥満、腹水、高度脂肪化、測定条件で解釈が難しくなる。
治療
非薬物療法
生活習慣介入は全患者の土台である。過体重・肥満があれば、まず5%以上の減量を現実的な目標にし、7-10%以上で肝炎症、10%以上で線維化改善が期待される文脈がある[1]。非肥満でも内臓脂肪やインスリン抵抗性があり得るため、体重だけで評価しない。
有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせる。食事は、超加工食品、単純糖質、飽和脂肪、果糖飲料を減らし、野菜、果物、豆類、ナッツ、魚、未加工食品を増やす方向で説明する。飲酒は安全域が明確ではなく、進行線維化がある場合は禁酒を強く考える。糖尿病、肥満、脂質異常症、高血圧、CKD、心血管疾患を同時に管理する。
薬物療法の考え方
薬物療法は、生活習慣介入の代替ではなく、線維化リスク・MASHの活動性・肥満/糖尿病/心腎リスクを踏まえて検討する補助療法である。エビデンス、海外承認、日本での適応・保険、専門医管理の必要性は分けて説明する。
resmetiromは肝臓標的のTHR-β選択的作動薬であり、米国では2024年に、非肝硬変MASHかつ中等度-高度線維化の成人に対して条件付き承認された。MAESTRO-NASHでは、MASH改善と線維化改善の複合的な組織学的評価でプラセボを上回った[1]。日本では未承認であり、今後の動向に注目する。
semaglutide 2.4 mg/週は、一部の研究でMASH解消、体重減少、糖代謝改善が示されている。初期試験では線維化改善が明確でないものもあったが、ESSENCE part 1ではMASH解消と線維化改善の両方で有効性が示された。代償性肝硬変ではMASH解消や線維化改善を示せなかった試験がある[1]。
tirzepatideは、SYNERGY-NASHでMASH解消と線維化1段階以上改善のシグナルが示され、体重、脂質、インスリン抵抗性、HbA1cも改善した。主な副作用は消化器症状である[1]。
pioglitazoneはPPAR-γ作動薬であり、MASHと線維化を対象にしたmeta-analysisでMASH解消や線維化改善が示される一方、体重増加が問題になる。心不全、浮腫、骨折リスクなどを考慮する[1]。
SGLT2阻害薬は、心血管・腎保護効果に加え、一部の研究で肝脂肪や肝酵素改善が示されている。dapagliflozin 10 mg/日のphase 2b試験ではMASH解消と線維化改善が示された[1]。糖尿病・CKD・心不全の適応とMASLD/MASHそのものへの適応は分けて考える。
日本の2026年MASLD診療ガイドラインは、2025年9月時点の国内状況として、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、pioglitazone、vitamin EはMASLDに対して保険適用外であると整理している[3]。これは「エビデンスがない」という意味ではなく、日本の保険・適応・使用場面が別問題という意味である。教材では、薬剤エビデンスを記載しつつ、実処方では糖尿病・肥満・CKD・心不全など既存適応の中で肝臓へのデータも参考にし、専門医管理、保険適用を分けて確認する。
フォローと患者説明
低リスクなら放置ではなく、生活習慣・心血管代謝リスク管理を進め、6-12か月程度を目安に肝酵素、血小板、FIB-4、糖代謝、脂質、血圧、体重、飲酒量、運動・食事目標を見直す。中間リスク以上、糖尿病、65歳超、複数代謝リスク、血小板低下、画像で肝硬変疑いがある場合は、早めに二次評価または専門医紹介を組み込む。
患者には次のように説明する。
「脂肪肝はよく見つかりますが、放ってよいという意味ではありません。肝臓の脂肪そのものより、肝臓が硬くなっていないか、糖尿病や心臓・腎臓のリスクが一緒に高くなっていないかを見ることが大切です。まず飲酒量を具体的に確認し、薬、サプリメント、ウイルス性肝炎など他の原因も確認します。採血でFIB-4という指標を計算し、必要なら肝臓の硬さを測る検査や専門医紹介につなげます。低リスクでも6-12か月程度で再評価し、食事、運動、血糖、血圧、脂質を一緒に整えて、肝臓と心血管のリスクを下げることが目標です。」
専門医紹介のタイミング
FIB-4が中間域または高値、VCTEで肝硬度が高い、または進行線維化が疑われる場合は、消化器内科または肝臓専門医への紹介を考える。
血小板低下、脾腫、腹水、食道静脈瘤、黄疸、肝性脳症、PT-INR延長、アルブミン低下など肝硬変を疑う所見がある場合も専門評価が必要である。肝細胞癌を疑う画像所見、原因不明の肝腫瘤、MASLD以外の肝疾患が否定できない場合、薬物療法、肥満治療、肝生検、HCCサーベイランスなど専門判断が必要な場合も紹介する。
紹介状には、飲酒歴、代謝リスク、BMI/腹囲、AST/ALT、血小板、アルブミン、PT-INR、FIB-4、画像所見、ウイルス性肝炎などの除外状況、現在の薬剤、糖尿病・CKD・心血管疾患の状況、患者の希望と生活背景を入れる。
黄疸、腹水、消化管出血、肝性脳症、急速な凝固異常、感染を伴う非代償化、肝細胞癌疑いなどは通常外来フォローではなく、早急な専門評価または救急評価を検討する。
参考文献
- Targher G, Valenti L, Byrne CD. Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease. New England Journal of Medicine. 2025;393:683-698. https://doi.org/10.1056/NEJMra2412865
- Diagnosis and management of metabolic dysfunction associated steatotic liver disease. BMJ. 2025. https://doi.org/10.1136/bmj-2025-084950
- Akuta N, Kogiso T, Ikejima K, et al. Evidence-based clinical practice guidelines for metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease (MASLD) 2026. Journal of Gastroenterology. 2026. https://doi.org/10.1007/s00535-026-02408-2