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麻疹

#疾患別

この記事で学ぶこと

  • 麻疹を疑う臨床像と感染性期間を説明できる
  • 麻疹の確定診断に用いる検体と検査法を説明できる
  • 日本の発生状況を踏まえて、なぜ今も麻疹を疑う必要があるか説明できる
  • 重症化しやすい患者、主な合併症、SSPEを整理できる
  • ワクチン、曝露後対応、ビタミンAの位置づけを説明できる
  • 外来・救急・病棟で麻疹を疑ったときの初動を組み立てられる

まず押さえるポイント

  • 麻疹は基本再生産数が12〜18と高く、極めて感染性が高い(Do and Mulholland, 2025)。
  • 日本は麻しん排除状態を維持しているが、2026年は国内報告数が前年より増えており、輸入例だけでなく国内接触にも注意が必要である(JIHS, 2026)。
  • 感染性期間は発疹出現の4日前から4日後までである(Do and Mulholland, 2025)。
  • 集団伝播を防ぐには、2回接種の接種率を人口レベルで95%以上に保つ必要がある(Do and Mulholland, 2025)。
  • 曝露後対応では、72時間以内のワクチンと、禁忌例での6日以内の免疫グロブリンを区別する(Do and Mulholland, 2025)。

症例で考える

8か月の乳児が、発熱、咳、鼻汁、結膜炎で受診した。発疹はまだない。家族から、数日前に麻疹患者が出た地域へ滞在していたことが分かった。

この時点で重要なのは、発疹を待たずに麻疹を疑うことである。麻疹は前駆期から感染性があり、発疹出現の4日前から周囲へ感染させうる。診察室に入ってから診断を考えるのではなく、受付、トリアージ、待合の段階で隔離につなげる必要がある。

1. 疾患の全体像

麻疹は、発熱、咳、鼻汁、結膜炎、発疹を特徴とする全身性ウイルス感染症である。典型例では、発熱とthree Csのあとに発疹が出現する。three Csとは、cough(咳)、coryza(鼻汁・鼻炎症状)、conjunctivitis(結膜炎)の3つを指す。

麻疹を「発疹を伴う一過性疾患」として扱うと危険である。急性期には肺炎、下痢、中耳炎、結膜炎を起こし、重症例では脳炎も起こる。さらに回復後も、二次感染、栄養障害、遅発性神経合併症などが問題になる(Do and Mulholland, 2025)。

特にSSPE(亜急性硬化性全脳炎)は、急性期の診療では忘れられやすいが重要である。麻疹感染後、数年から10年程度を経て発症しうる進行性中枢神経疾患で、乳児期、特に低年齢で麻疹に感染した場合にリスクが高くなる(Do and Mulholland, 2025)。

臨床では、患者本人の重症度だけでなく、周囲への感染拡大リスクを同時に考える必要がある。

2. 疫学・インパクト

麻疹の基本再生産数は12〜18とされる。これは、免疫のない集団では1人の患者から多数の二次感染が生じうることを意味する(Do and Mulholland, 2025)。

世界的には2024年以降、WHO全地域で麻疹症例が増加している。2024年の検査確定例は395,521例、2025年最初の2か月で16,147例が報告された(Do and Mulholland, 2025)。

日本は2015年にWHO西太平洋地域の麻しん排除状態にあると認定され、その後も2024年まで排除状態の維持が確認されている。ただし、排除状態は「国内で注意しなくてよい」という意味ではない。輸入例を起点に医療機関、学校、家庭、施設で感染が広がる可能性がある(JIHS, 2026)。

日本では2026年第1〜14週に236例の麻しん報告があり、2020〜2025年の同時期を上回った。さらに、2026年4月15日時点では299例が報告され、前年同時期の78例の約3.8倍であった(JIHS, 2026)。

厚生労働省は、2023年以降、国外の麻しん流行に伴って国内でも輸入症例が増加しており、海外渡航歴のない症例も報告されているとしている(厚生労働省, 2026)。

麻疹の集団伝播を防ぐには、2回接種の接種率を人口レベルで95%以上に保つ必要がある。これは麻疹の感染性が極めて高いためである(Do and Mulholland, 2025)。

3. 診断の考え方

曝露から発症までは通常10〜14日で、範囲としては7〜23日である。前駆期には発熱に加えて、three Cs、つまり咳、鼻汁・鼻炎症状、結膜炎がみられる。Koplik斑は麻疹に特徴的だが、常に認められるわけではない(Do and Mulholland, 2025)。

発疹は発熱開始から2〜4日後に出現し、顔面から頭部、体幹、四肢へ広がる。典型的には紅斑性の斑丘疹状発疹である。

診断で重要なのは、発疹が出る前に疑うことである。発熱とthree Csがあり、ワクチン未接種、接種状況不明、海外渡航、流行地域曝露、医療機関や学校での接触がある場合は、麻疹を鑑別に入れる。

症状

典型的には、発熱、咳、鼻汁・鼻炎症状、結膜炎が先行し、その後に発疹が出る。発疹だけを待っていると初動が遅れるため、発熱とthree Csの組み合わせで疑う。

身体所見

確認すべき身体所見は、Koplik斑、結膜炎、発疹の分布と進展である。発疹は顔面から始まり、頭部、体幹、四肢へ広がる。

Koplik斑は有用な所見だが、単独で過信しない。日本の全国サーベイランスデータでは、Koplik斑の麻疹診断に対する感度は48%、特異度は80%と報告されている。つまり、Koplik斑があれば疑いは強まるが、認めないことだけで麻疹は除外できない(Sakata et al., 2019)。

検査

最終的な確定診断では、病原体診断を確認する。届出上の病原体診断には、咽頭拭い液、血液、髄液、尿を用いたウイルス分離・同定、またはPCR法による麻しんウイルス遺伝子の検出が含まれる。血清学的には、血清IgM抗体の検出、またはペア血清での抗体陽転・抗体価の有意上昇も用いられる(厚生労働省, 2026)。

実務上は、鼻咽頭または咽頭スワブ、尿、血清を組み合わせて採取する。CDCは鼻咽頭または咽頭スワブを尿より優先するとしている(CDC, 2024)。

RT-PCRは発疹出現後早期、とくに発疹出現後1〜3日以内に最も検出されやすい。10〜14日後まで検出されることもあるが、検体採取のタイミング、検体の質、取り扱いに左右されるため、陰性でも臨床的に疑わしい場合は除外しない(CDC, 2024; CDC, 2025)。

ただし、検査結果を待ってから隔離や連絡を始めるのではない。麻疹を疑った時点で感染対策を開始し、保健所や院内感染対策部門と相談しながら検体採取と届出対応を進める。

4. 初期評価

麻疹を疑ったら、最初に考えるべきことは感染対策である。

初期対応の流れ:

  1. 発熱、three Cs、発疹、曝露歴、接種歴を確認する
  2. 速やかに隔離する
  3. 院内の感染対策部門へ連絡する
  4. 保健所への相談を検討する
  5. 接触者の範囲と接種歴を確認する
  6. 曝露後ワクチンまたは免疫グロブリンの適応を判断する

確定検査を待ってから動くのではなく、疑った時点で隔離と連絡を始める。

5. 重症度・リスク層別化

麻疹では約30%で何らかの合併症が起こる。先進国での主な重症合併症頻度は、肺炎1〜6%、下痢8〜10%、中耳炎7〜9%である(Do and Mulholland, 2025)。

重症化しやすい患者:

  • 乳児
  • 栄養不良
  • 免疫不全
  • 妊娠

免疫不全者では肺炎や脳炎が重症化しやすい。妊娠中の麻疹は、母体死亡、子宮内発育不全、流産と関連する(Do and Mulholland, 2025)。

麻疹関連脳炎はまれだが重篤である。急性期だけでなく、数か月後、あるいは年単位で遅れて発症する神経合併症もある(Do and Mulholland, 2025)。

SSPE

SSPEは、麻疹後に遅れて発症する進行性の中枢神経疾患である。認知・行動変化、ミオクローヌス、けいれん、進行性の神経退行などで気づかれる。確立した根治療法に乏しいため、臨床上のポイントは「疑う」ことだけでなく、麻疹感染そのものをワクチンで予防することである。乳児期の感染ではリスクが高くなるため、乳児の麻疹は急性期が軽く見えても慎重に扱う(Do and Mulholland, 2025)。

6. 治療と予防

麻疹に承認された抗ウイルス薬はない。管理の中心は、早期発見、隔離、合併症治療、院内・地域内伝播の予防である(Do and Mulholland, 2025)。

ワクチン

米国の定期接種では、MMRの1回目を12〜15か月、2回目を4〜6歳で接種する。流行地や海外渡航前では、6〜11か月の乳児に追加接種が検討される。ただし、この追加接種を行っても、その後の通常の2回接種は必要である(Do and Mulholland, 2025)。

曝露後対応

未接種または接種不十分の曝露者には、曝露後72時間以内の麻疹ワクチンが推奨される(Do and Mulholland, 2025)。

ワクチン禁忌がある免疫不全者、妊娠者、6か月未満の乳児では、曝露後6日以内の免疫グロブリンが推奨される(Do and Mulholland, 2025)。

ビタミンA

WHOは急性麻疹の全患者に年齢別用量のビタミンA補充を推奨している。ビタミンAは合併症と死亡リスク低下を目的に用いられるが、過量摂取で毒性がある。ワクチンの代替ではなく、現地の指示に基づいて用量管理する(Do and Mulholland, 2025)。

7. フォローアップ

急性期後も、肺炎、栄養不良、眼合併症、神経合併症に注意する。乳児、栄養不良、免疫不全、妊娠では、初期症状が軽くても慎重に経過をみる。乳児期に麻疹へ感染した場合は、遅発性のSSPEも説明とフォローの文脈で意識する。

ワクチン未接種者や接種不十分者が見つかった場合は、本人だけでなく、家族、学校、職場、医療機関内の接触者対応へつなげる。

8. コンサルト・紹介

次の状況では早期に感染症専門医、感染対策部門、保健所へ相談する。

  • 免疫不全
  • 妊娠
  • 乳児
  • 重症肺炎
  • 神経症状
  • 院内曝露
  • 学校、保育施設、医療機関での集団発生疑い

眼症状が強い場合は眼科、神経症状がある場合は神経内科または小児神経、妊娠中の場合は産科との連携も必要になる。

参考文献