胸痛
この記事で学ぶこと
- 胸痛を、まず「外来で見続けてよいか」を判断する症候として評価できる。
- 急性か慢性か、不安定か安定か、Criticalが残るかを順番に分けられる。
- 鑑別疾患を Common / Critical / Rare に分けて整理できる。
- 病歴、身体所見、初期検査、追加検査、Clinical decision rule を組み合わせて判断できる。
まず押さえるポイント
- 胸痛の初期対応では、最初に急性冠症候群を含む危険疾患を見逃さないことを優先する。可能性が高ければ救急外来・病院での評価につなぐ(McConaghy 2013)。
- 胸痛はプライマリケア外来受診の約1%を占め、そのうち約1.5%に不安定狭心症または急性心筋梗塞が含まれる(McConaghy 2013)。
- ACSを病歴と身体所見だけで確定・除外することは難しい。HEART scoreやTIMI scoreのように、病歴・心電図・リスク因子・初回トロポニンを組み合わせるスコアの方が診断情報を多く持つ(Fanaroff 2015)。
- 大動脈解離は、突然発症の強い胸背部痛、脈拍差・血圧差、神経症状で疑う。正常な胸部X線や突然発症でないことは可能性を下げるが、臨床所見だけで安全に除外できる疾患ではない(Klompas 2002)。
- 肺塞栓は、経験ある臨床家のgestaltとClinical prediction ruleが同程度に有用である。低い検査前確率と正常D-dimerを組み合わせると、さらなる検査なしに除外しやすい(Chunilal 2003)。
- 胸壁痛、GERD、不安・パニックは頻度が高いが、危険疾患を評価する前に筋骨格性・消化器・心因性と決めつけない。
症例で考える
52歳男性。高血圧と喫煙歴がある。朝から前胸部の圧迫感を自覚し、外来を受診した。痛みは30分以上続き、左肩に放散する。冷汗もある。血圧は保たれているが、本人は「胃もたれかもしれない」と話している。
この症例では、本人の表現が「痛み」ではなく「圧迫感」「胃もたれ」であっても、急性冠症候群を先に考える。胸痛の症候学で重要なのは、診断名を早く当てることではなく、危険疾患を拾い上げ、外来で抱え込まない判断をすることである。
1. この症候のゴール
胸痛診療のゴールは、「胸痛の原因をすべて外来で確定すること」ではない。最初のゴールは、外来・初期対応の場で見続けてよい胸痛か、救急外来や高次医療機関へつなぐべき胸痛かを判断することである。
特に重要なのは、急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓、気胸、食道破裂のように、見逃すと短時間で重篤化しうる疾患を落とさないことである。一方で、実際には胸壁痛、GERD、不安・パニックなど頻度の高い原因も多い。したがって胸痛では、頻度と重症度を分けて考える必要がある。
2. まず分ける
胸痛では、最初に次の3つを分ける。
1. 急性か、慢性・反復性か
数分から数時間で出現した急性胸痛では、Criticalを先に考える。数週間から数か月続く慢性・反復性胸痛では、筋骨格性、GERD、皮膚疾患、腫瘍、炎症性疾患なども考える。ただし、慢性的な胸痛でも増悪や新しい性状があれば急性胸痛として扱う。
2. 不安定か、安定しているか
低血圧、低酸素、意識障害、冷汗、持続する強い痛み、急性心不全を示す所見があれば、診断を外来で完結させようとしない。蘇生、モニタリング、救急搬送を優先する。
3. Criticalが残るか
安定していても、急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓、気胸、食道破裂が残るなら紹介・搬送を考える。胸壁圧痛や不安があっても、それだけでCriticalを除外しない。
3. 鑑別診断
Common
| 疾患 | 疑う手がかり | 注意点 |
|---|---|---|
| 胸壁痛・筋骨格性胸痛 | 限局した痛み、触診で再現、刺すような痛み | ACSを完全には除外しない |
| 肋軟骨炎 | 胸骨傍・肋軟骨部の圧痛 | 腫脹があればTietze症候群も考える |
| GERD | 胸骨後部の灼熱感、酸逆流、口の苦味・酸味 | 心血管リスクがある場合は先に虚血を評価する |
| 不安・パニック | 発作性の恐怖感、動悸、息切れ、胸部不快感 | 心因性と決めつける前に危険疾患を評価する |
Critical
| 疾患 | 疑う手がかり | 初期対応の方向 |
|---|---|---|
| 急性冠症候群 | 既往の異常ストレステスト、末梢動脈疾患、両腕への放散、ST低下、虚血性心電図変化 | HEART scoreやTIMI score、初回トロポニンを含めて判断し、高リスクなら救急・循環器評価 |
| 急性大動脈解離 | 突然発症の強い胸背部痛、神経症状、失神、上肢血圧差・脈拍差 | 造影CTを考える。疑いが強ければ救急搬送 |
| 肺塞栓 | 突然の呼吸困難、胸膜痛、頻脈、低酸素、DVTリスク | Wells基準などで事前確率を見積もり、低リスクならD-dimer、高リスクならCTPAを検討 |
| 気胸 | 突然の片側胸痛、呼吸困難、片側呼吸音低下 | 胸部X線またはエコー。緊張性なら緊急対応 |
| 食道破裂 | 嘔吐後の強い胸痛、皮下気腫、発熱、ショック | 造影CTなど。疑えば救急・外科的評価 |
Rare
| 疾患 | 疑う手がかり | 注意点 |
|---|---|---|
| 帯状疱疹 | 片側性、皮膚の違和感・痛み、水疱 | 皮疹出現前は診断が難しい |
| 胸膜炎 | 胸膜性胸痛、呼吸で増悪 | 肺炎、肺塞栓、悪性腫瘍など背景疾患を探す |
| 縦隔腫瘍・肺癌 | 慢性経過、体重減少、咳、血痰 | 急性胸痛の初期対応とは分けて考える |
| 炎症性疾患 | 反復する胸痛、発熱、関節症状、皮膚症状 | SAPHO症候群、家族性地中海熱などは経過で疑う |
| Precordial catch syndrome | 若年者、短時間の鋭い前胸部痛 | 危険疾患が否定的な場合に考える |
4. 病歴聴取のポイント
胸痛の病歴では、OPQRSTを使うと抜けが少ない。ただし、単に項目を埋めるのではなく、Criticalを拾う質問として使う。
| 項目 | 確認すること | 診断への使い方 |
|---|---|---|
| Onset | いつ、どのように始まったか | 突然発症は解離、肺塞栓、気胸を考える |
| Provocation / Palliation | 労作、呼吸、体位、食事、安静、ニトロで変わるか | 労作で増悪し安静で改善すれば虚血を考える。吸気や体位で変わるなら胸膜・心膜を考える |
| Quality | 圧迫感、絞扼感、刺すような痛み、灼熱感 | 圧迫感は虚血、灼熱感や酸逆流はGERDを考える |
| Region / Radiation | 部位、放散 | 肩・頸部・腕・顎への放散は心筋梗塞の可能性を上げる |
| Severity | 痛みの強さ、生活への影響 | 強さだけでは危険度を決めないが、急激で強い痛みは危険疾患を考える |
| Time course | 持続時間、反復、増悪傾向 | 安静時、長時間持続、新規または増悪する胸痛は不安定狭心症を考える |
急性心筋梗塞らしさを上げる病歴・所見として、男性で60歳超、発汗、肩・頸部・腕・顎への放散、狭心症または心筋梗塞の既往が挙げられる(McConaghy 2013)。両腕への放散は急性心筋梗塞の可能性を上げる(LR+ 7.1)(McConaghy 2013)。
救急外来でACSを疑う患者では、Fanaroffらのsystematic reviewで、既往の異常ストレステスト(特異度96%、LR 3.1)、末梢動脈疾患(特異度97%、LR 2.7)、両腕への放散(特異度96%、LR 2.6)がACSを示唆する所見として挙げられている(Fanaroff 2015)。
一方、胸膜性胸痛、鋭い・刺すような痛み、触診で再現される痛みは急性心筋梗塞の可能性を下げる。ただし、単独で除外する所見ではない(McConaghy 2013)。
大動脈解離では、突然発症の痛みが重要である。Klompasのreviewでは、解離患者の多くに強い痛み(感度90%)と突然発症(感度84%)がみられ、突然発症がないことは解離の可能性を下げる(LR- 0.3)(Klompas 2002)。
肺塞栓では、病歴と身体所見をばらばらに見るより、臨床的な全体判断またはClinical prediction ruleで検査前確率を見積もる。Chunilalらは、経験ある臨床家のgestaltとClinical prediction ruleはいずれも低・中・高リスクを識別できるとまとめている(Chunilal 2003)。
5. 身体所見のポイント
身体所見は、ACSを確定・除外するためだけではなく、危険疾患の手がかりを拾うために行う。
| 所見 | 示唆する疾患 | 注意点 |
|---|---|---|
| 低血圧、冷汗、意識障害 | ACS、大動脈解離、肺塞栓、緊張性気胸など | 不安定なら外来で経過観察しない |
| III音 | 急性心筋梗塞、心不全 | 急性心筋梗塞の可能性を上げる(LR+ 3.2) |
| 呼吸音左右差 | 気胸、胸水、大きな肺病変 | 緊張性気胸なら緊急対応 |
| 発熱、egophony、打診濁音 | 肺炎 | egophonyは肺炎の可能性を上げる(LR+ 8.6) |
| 片側下肢腫脹、下腿圧痛 | DVT、肺塞栓 | Wells基準の構成要素 |
| 上肢血圧差、脈拍差 | 大動脈解離 | 感度は高くないが、胸背部痛と合わさると疑いが上がる |
| 限局した胸壁圧痛 | 胸壁痛、肋軟骨炎 | 胸壁痛を示唆するが、ACSを完全には除外しない |
| 皮疹、水疱 | 帯状疱疹 | 初期は皮疹が目立たないことがある |
身体所見だけで急性心筋梗塞を除外することはできない。虚血が気になる場合は、心電図と必要な追加評価につなげる。
大動脈解離では、脈拍差または血圧差、神経巣症状があると可能性が上がる。Klompasのreviewでは、脈拍差・血圧差はLR+ 5.7、神経巣症状はLR+ 6.6-33.0とされる(Klompas 2002)。ただし、これらがないからといって除外はできない。
6. 初期検査
初期検査は「胸痛全員に全部行う」ではなく、危険疾患を拾うために優先順位をつける。
| 検査 | 使う場面 | 見ること |
|---|---|---|
| 12誘導心電図 | 急性胸痛、虚血を疑う場合 | ST上昇・低下、新規左脚ブロック、Q波、新規T波陰転化。ST低下や虚血所見はACSの可能性を上げる |
| トロポニン | ACSを疑う場合 | 心筋傷害。発症早期は陰性のことがあるため経時的評価が必要。HEART/TIMIでは初回トロポニンも組み込む |
| バイタル、SpO2 | すべての胸痛 | 不安定性、低酸素、頻脈、ショック |
| 胸部X線 | 気胸、肺炎、心不全、大動脈陰影を考える場合 | 気胸、肺炎、肺うっ血、縦隔拡大など |
急性胸痛で虚血の可能性がある場合、12誘導心電図が初期検査の中心である。ST上昇・低下、新規左脚ブロック、Q波、新規T波陰転化はACSまたは急性心筋梗塞の可能性を上げ、高次医療機関での評価が必要になる(McConaghy 2013)。
Fanaroffらのreviewでは、ACSに対してST低下は特異度95%、LR 5.3、何らかの虚血性心電図所見は特異度91%、LR 3.6であった(Fanaroff 2015)。心電図だけでACSを除外するのではなく、トロポニンとリスクスコアを組み合わせる。
7. 追加検査
追加検査は、初期評価で残った鑑別に合わせて選ぶ。
| 疑う疾患 | 追加検査 | 補足 |
|---|---|---|
| ACS | 反復心電図、反復トロポニン、心エコー、冠動脈評価 | 初回心電図や初回トロポニンだけで安心しない |
| 肺塞栓 | D-dimer、CTPA、下肢静脈エコー | Wells基準などで事前確率を見積もってから選ぶ |
| 大動脈解離 | 造影CT | 疑いが強い場合は搬送・救急評価を優先 |
| 気胸・肺炎 | 胸部X線、肺エコー、胸部CT | 呼吸音左右差、発熱、咳、低酸素と合わせる |
| 心不全 | BNP/NT-proBNP、心エコー、胸部X線 | 胸痛より息切れが主訴のこともある |
| 心膜炎 | 心電図、心エコー、炎症反応 | 吸気・臥位で増悪し、前屈で軽快する胸痛を確認する |
| GERD | PPI試験、必要に応じて上部消化管評価 | 灼熱感、酸逆流、苦味・酸味を確認する |
検査を増やすこと自体が目的ではない。大切なのは、危険疾患を疑う患者を外来で抱え込まず、適切な場所で検査できるようにすることである。
大動脈解離を考える場合、胸部X線は補助的な検査である。Klompasのreviewでは胸部X線は多くで異常を示す(感度90%)ため、正常な大動脈・縦隔陰影は解離の可能性を下げる(LR- 0.3)。ただし、見逃しの害が大きいため、疑いが残る場合は造影CTなどへ進む(Klompas 2002)。
肺塞栓では、低い検査前確率と正常D-dimerを組み合わせることで除外しやすくなる。検査前確率が高い場合は、D-dimerで安心せず画像検査へ進む。
8. 感度・特異度・尤度比
症候学では、所見が「ある・ない」だけでなく、検査前確率をどの程度動かすかを意識する。ここでは病歴、診察、検査・スコアに分けて整理する。
病歴・リスク因子
| 対象 | 所見・質問 | 指標 | 使い方 |
|---|---|---|---|
| 急性心筋梗塞 | 両腕への放散痛 | LR+ 7.1、LR- 0.67 | あると可能性が上がる。ないだけでは除外できない |
| ACS | 既往の異常ストレステスト | 特異度96%、LR+ 3.1 | ACSを示唆する既往 |
| ACS | 末梢動脈疾患 | 特異度97%、LR+ 2.7 | 全身の動脈硬化リスクとして重視する |
| ACS | 両腕への放散痛 | 特異度96%、LR+ 2.6 | Fanaroff 2015ではACSに対する指標 |
| ACS | 過去の虚血発作に似た痛み | 特異度79%、LR+ 2.2、LR- 0.67 | 「いつもの狭心症に似ている」は有用 |
| ACS | 24時間以内の痛みのパターン変化 | 特異度86%、LR+ 2.0 | 不安定化の手がかり |
| ACS | 胸膜性胸痛 | LR 0.35-0.61 | 可能性を下げるが、単独で除外しない |
| 急性心筋梗塞 | 胸膜性胸痛 | LR- 0.2 | McConaghy 2013ではMIの可能性を下げる所見 |
| 急性心筋梗塞 | 鋭い・刺すような胸痛 | LR- 0.3 | 可能性を下げるが、リスク因子と心電図を見る |
| 急性心筋梗塞 | 心血管リスク因子あり、40-65歳 | LR+ 2.1 | リスク因子だけでは決めないが、初期リスク評価に使う |
| 急性心筋梗塞 | 心血管リスク因子あり、65歳超 | LR+ 1.1 | 高齢ではリスク因子の有無だけでは識別力が弱い |
| 胸壁痛 | 限局した筋緊張、刺すような痛み、触診で再現、咳がない、のうち2つ以上 | LR+ 3.0、LR- 0.47 | 胸壁痛を支持するが、ACSを除外する所見ではない |
| GERD | 灼熱感、酸逆流、酸味・苦味、高用量PPI 1週間で改善 | LR+ 3.1、LR- 0.30 | 虚血が低そうな場合にGERDを支持する |
| パニック障害 | 「過去4週間に突然強い恐怖やパニックを感じる発作があったか」 | 感度93%、特異度78%、LR+ 4.2、LR- 0.09 | 陰性ならパニック障害らしさはかなり下がる |
| 大動脈解離 | 強い痛み | 感度90% | 感度は高いが特異的ではない |
| 大動脈解離 | 突然発症 | 感度84%、LR+ 1.6、LR- 0.3 | 突然発症がないと可能性は下がるが除外はできない |
| 大動脈解離 | 高血圧の既往 | 感度64%、LR+ 1.6 | あると少し上がる程度 |
| 大動脈解離 | Marfan症候群 | LR+ 4.1 | ある場合は強い背景リスク |
| 大動脈解離 | tearing/ripping pain | LR+ 7.6 | 1研究由来で不確実性あり。強く疑う手がかり |
| 肺塞栓 | Clinical gestaltで低リスク | PE率 8-19% | 経験ある臨床家の全体判断 |
| 肺塞栓 | Clinical gestaltで中リスク | PE率 26-47% | D-dimerや画像検査の前提になる |
| 肺塞栓 | Clinical gestaltで高リスク | PE率 46-91% | D-dimerで安心せず画像評価へ |
| 肺塞栓 | Clinical prediction ruleで低リスク | PE率 3-28% | 低リスク + D-dimer陰性で除外しやすい |
| 肺塞栓 | Clinical prediction ruleで中リスク | PE率 16-46% | 追加検査が必要 |
| 肺塞栓 | Clinical prediction ruleで高リスク | PE率 38-98% | 画像検査へ進む |
身体所見
| 対象 | 所見 | 指標 | 使い方 |
|---|---|---|---|
| 急性心筋梗塞 | III音 | LR+ 3.2、LR- 0.88 | あるとMI・心不全を考える。ないだけでは除外できない |
| 急性心筋梗塞 | 低血圧 | LR+ 3.1、LR- 0.96 | 重症度評価としても重要 |
| ACS | 低血圧 | LR+ 3.9、95%CI 0.98-15 | Fanaroff 2015ではCIが広く、単独判断は弱い |
| ACS | 触診で再現される痛み | LR 0.28 | ACSの可能性を下げるが、完全には除外しない |
| 肺炎 | egophony | LR+ 8.6、LR- 0.96 | あると肺炎らしさが上がる。ないだけでは下がらない |
| 肺炎 | 打診濁音 | LR+ 4.3、LR- 0.79 | 肺炎を支持する |
| 肺炎 | 発熱 | LR+ 2.1、LR- 0.71 | 単独では弱いが、咳・痰・聴診所見と合わせる |
| 肺炎 | 臨床判断 | LR+ 2.0、LR- 0.24 | 全体判断は除外にもある程度有用 |
| 心不全 | 臨床判断 | LR+ 9.9、LR- 0.65 | 胸痛より呼吸困難が目立つこともある |
| 心不全 | 心不全の既往 | LR+ 5.8、LR- 0.45 | 既往があると可能性が上がる |
| 心不全 | 急性心筋梗塞の既往 | LR+ 3.1、LR- 0.69 | 心不全合併の背景として見る |
| 大動脈解離 | 脈拍差・血圧差 | LR+ 5.7 | あると可能性が上がる。感度は31%程度で、ないだけでは除外できない |
| 大動脈解離 | 神経巣症状 | LR+ 6.6-33.0 | あると強く疑う。脳卒中様でも解離を考える |
| 大動脈解離 | 拡張期雑音 | 感度28%、LR+ 1.4、LR- 0.9 | ほぼ判別力は低い。新規なら意味が増す可能性 |
検査・スコア
| 対象 | 検査・スコア | 指標 | 使い方 |
|---|---|---|---|
| ACS | ST低下 | 感度25%、特異度95%、LR+ 5.3 | あるとACSを強く疑う |
| ACS | 何らかの虚血性心電図所見 | 感度32%、特異度91%、LR+ 3.6 | あると疑いが上がる。ないだけでは除外できない |
| ACS | HEART score 7-10点 | LR 13 | ACSの可能性を大きく上げる |
| ACS | HEART score 0-3点 | LR 0.20 | 可能性を下げる。施設プロトコルとトロポニン測定法に依存する |
| ACS | TIMI score 5-7点 | LR 6.8 | 高リスクとして扱う |
| ACS | TIMI score 0-1点 | LR 0.31 | 可能性を下げるが、HEARTより除外力は弱め |
| ACS | HFA/CSANZ low-intermediate risk | LR 0.24 | 可能性を下げる |
| 心不全 | 胸部X線で肺水腫 | LR+ 11.0、LR- 0.48 | あると心不全を強く支持 |
| 肺塞栓 | Wells基準で高リスク | LR+ 6.8、LR- 1.8 | 高リスクならD-dimerで除外しない |
| 肺塞栓 | Wells基準で中リスク | LR+ 1.3、LR- 0.7 | ほとんど検査前確率を動かさない |
| 肺塞栓 | Wells基準で低リスク | LR+ 0.1、LR- 7.6 | 「低リスク群」であること自体がPEの可能性を下げる |
| 肺塞栓 | D-dimer | 高感度、特異度30-75% | 低リスク・中リスクで陰性なら除外に使う。陽性は非特異的 |
| 大動脈解離 | 胸部X線異常 | 感度90% | 異常が多いが、所見は主観的なものも多い |
| 大動脈解離 | 正常な大動脈・縦隔陰影の胸部X線 | LR- 0.3 | 可能性を下げるが、疑いが残れば造影CT |
| 大動脈解離 | 急性胸背部痛 + 上肢脈拍差 | LR+ 5.3 | McConaghy 2013の外来向け整理 |
これらの数値は、単独で診断を確定・除外するものではない。とくにACS、肺塞栓、大動脈解離では、「病歴だけ」「診察だけ」「検査1つだけ」で判断せず、検査前確率、初期検査、必要な追加検査を組み合わせる。
9. Clinical decision rule
CAD予測ルール
プライマリケアで胸痛が冠動脈疾患によるものかを見積もるルールとして、以下の5項目が紹介されている(McConaghy 2013)。
| 項目 | 点数 |
|---|---|
| 男性55歳以上、女性65歳以上 | 1 |
| 既知の冠動脈疾患、閉塞性血管疾患、脳血管疾患 | 1 |
| 運動で痛みが悪化する | 1 |
| 触診で痛みが再現されない | 1 |
| 患者本人が心臓由来だと思っている | 1 |
0-1点では冠動脈疾患は少なく、4-5点では冠動脈疾患の可能性が高く、緊急評価を考える(McConaghy 2013)。これは診断を確定する道具ではなく、心電図や紹介判断と合わせて使う。
Wells基準
肺塞栓を疑う場合は、Wells基準などで事前確率を整理する。
| 項目 | 点数 |
|---|---|
| DVTの臨床所見 | 3 |
| PEが他疾患よりもっともらしい | 3 |
| 心拍数100/分超 | 1.5 |
| DVT/PEの既往 | 1.5 |
| 4週間以内の手術または臥床 | 1.5 |
| 血痰 | 1 |
| 6か月以内の悪性腫瘍 | 1 |
低リスクではD-dimerを使って除外を狙い、高リスクでは画像検査へ進む。スコアは「検査前確率」を整えるための道具であり、患者全体の状態と合わせて判断する。
HEART score
救急外来でACSを疑う胸痛患者では、HEART scoreがよく使われる。History、ECG、Age、Risk factors、Troponinをそれぞれ0-2点で評価し、合計0-10点で層別化する。
| 項目 | 0点 | 1点 | 2点 |
|---|---|---|---|
| History | 疑わしくない | 中等度に疑う | 強く疑う |
| ECG | 正常 | 非特異的再分極異常 | 有意なST低下 |
| Age | 45歳未満 | 45-64歳 | 65歳以上 |
| Risk factors | なし | 1-2個 | 3個以上、または既知の動脈硬化性疾患 |
| Troponin | 正常 | 1-3倍 | 3倍超 |
Fanaroffらのreviewでは、HEART score 7-10点はACSの可能性を大きく上げ(LR 13)、0-3点は可能性を下げる(LR 0.20)(Fanaroff 2015)。ただし、スコアは地域のプロトコル、トロポニン測定法、観察時間と組み合わせて使う。
TIMI score
TIMI scoreは、ACSリスクを層別化する代表的なスコアである。
| 項目 | 点数 |
|---|---|
| 65歳以上 | 1 |
| 冠動脈リスク因子が3つ以上 | 1 |
| 既知の冠動脈狭窄 | 1 |
| 7日以内のアスピリン使用 | 1 |
| 24時間以内に2回以上の狭心症状 | 1 |
| ST偏位 | 1 |
| 心筋マーカー上昇 | 1 |
Fanaroffらのreviewでは、TIMI 5-7点はACSの可能性を上げ(LR 6.8)、0-1点は可能性を下げる(LR 0.31)(Fanaroff 2015)。HEART scoreと同様、単独で最終判断するものではなく、診療体制に合わせて使う。
10. 実践フロー
- 胸痛患者を見たら、まずバイタル、SpO2、意識、冷汗、呼吸状態を見る。
- 不安定なら、蘇生、モニタリング、救急搬送を優先する。
- 急性胸痛なら、急性冠症候群を中心にCriticalを先に考える。
- 病歴で、発症様式、労作性、放散、冷汗・嘔気、呼吸困難、失神、DVTリスク、嘔吐後発症を確認する。
- 身体所見で、心音、呼吸音左右差、下肢腫脹、上肢血圧差、胸壁圧痛、皮疹を見る。
- 虚血が疑わしければ12誘導心電図を行い、ST変化、新規左脚ブロック、Q波、新規T波陰転化を確認する。
- ACSでは、病歴・心電図・リスク因子・初回トロポニンを組み合わせ、HEART scoreやTIMI scoreを使って高リスクを拾う。
- 肺塞栓では、gestaltまたはWells基準で検査前確率を見積もり、低リスクならD-dimer、高リスクなら画像検査へ進む。
- 大動脈解離では、突然発症、強い胸背部痛、脈拍差・血圧差、神経症状、胸部X線を手がかりにし、疑いが残れば造影CTへ進む。
- ACS、大動脈解離、肺塞栓、気胸、食道破裂が残るなら、外来で完結させず紹介・搬送する。
- Criticalが低そうなら、Commonを中心に診断を絞る。
11. 紹介・コンサルトの基準
以下では救急外来、循環器内科、呼吸器内科、心臓血管外科、消化器外科などへの紹介を考える。
- バイタル不安定、ショック、意識障害
- ACSを疑う病歴、心電図変化、トロポニン陽性または評価が必要
- 突然発症の強い胸背部痛、神経症状、脈拍差・血圧差など大動脈解離を疑う所見
- 呼吸困難、低酸素、頻脈、DVTリスクがあり肺塞栓を疑う場合
- 片側呼吸音低下、緊張性気胸を疑う場合
- 嘔吐後の強い胸痛、皮下気腫、敗血症所見など食道破裂を疑う場合
- 外来で検査・経過観察するには不確実性が高い場合
参考文献
- McConaghy JR, Oza RS. Outpatient Diagnosis of Acute Chest Pain in Adults. Am Fam Physician. 2013;87(3):177-182. https://www.aafp.org/pubs/afp/issues/2013/0201/p177.html
- Fanaroff AC, Rymer JA, Goldstein SA, Simel DL, Newby LK. Does this patient with chest pain have acute coronary syndrome? JAMA. 2015;314(18):1955-1965.
- Klompas M. Does this patient have an acute thoracic aortic dissection? JAMA. 2002;287(17):2262-2272.
- Chunilal SD, Eikelboom JW, Attia J, et al. Does this patient have pulmonary embolism? JAMA. 2003;290(21):2849-2858.